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「forme」運営会社Tonal Harmonyの水上寿美江です。 ヴァイオリンを演奏する私が最近 “歌” を習い始めました。その歌を習うことで感じた「音楽と言葉」について少し変化球的に(笑)お話したいと思います。

「音楽と言葉」と聞いて、

まず思い浮かぶのがオペラ・・・。

舞台美術、舞台衣装、舞台照明、大道具小道具、オーケストラ、バレエ、そして主役の歌手たちと合唱。オペラが総合芸術といわれる由縁ですが、このオペラという総合芸術に「言葉」が大きな役割をもって存在していることは、あまりにも当たり前で見逃されがちです。

オペラの曲が使用される代表的舞台

「フィギアスケート」

2006年トリノオリンピックで金メダルを獲得した女子フィギュアスケートの荒川静香さんが選曲したのはプッチーニのオペラ≪トゥーランドット≫でした。

オペラ冒頭部と、カラフ王子のアリア“Nessun dorma誰も寝てはならぬ’’が、歌と合唱が省かれ、壮大な弦楽のオーケストレーションで編曲されていました。大会直前にこの曲の選曲を決断したという荒川さんは、このオリンピック大会の開会式でイタリアを代表する世界的テノール歌手ルチアーノ・パヴァロッティが偶然にもこのアリアを歌うとは知らなかったといいます。

オペラ≪トゥーランドット≫とは?

オペラ≪トゥーランドット≫は、古代中国が舞台のスケールが壮大なグランド・オペラ。絶世の美女トゥーランドット妃が、「3つの謎を示すが、それらを解く者の妃となる。失敗した者は斬首の刑に処す」と。しかし、ダッタンの王子カラフは、彼女の美しさに魅了され謎解きに挑戦します。ついに3つの謎を解決したカラフだが、妃はカラフとの結婚に難色を示します。カラフは逆に、妃が自分の名を夜明けまでに当てれば結婚を諦め、自分の命を捧げると彼女に示します。冷徹なトゥーランドット妃は民衆に向けて「夜明けまでに彼の名を示せ。示さねば民衆ともども皆殺しに処す」とし、民衆は困惑するが、カラフ王子は、第3幕で“Nessun Dorma誰も寝てはならぬ’’ を歌うのです。

 

Nessun Dorma, 誰も寝てはならぬ

(中略)

il nome mio nessun saprà!    私の名は誰も知らない

No, no, sulla tua bocca lo dirò,   しかし 光が輝く時(暁)

quando la luce splenderà!     私はあなたにそれを告げるだろう

Ed il mio bacio scioglierà               そして私の口づけは沈黙を溶かし

il silenzio che ti fa mia.                  あなたは私のものとなる。

Dilegua, o notte !               夜よ去れ!

Tramontate, stele !         星よ沈め!

All’alba vincerò         夜明けに私は勝利するであろう

Vincerò              私は勝利する!

 

トリノオリンピックを振り返って

この大会において荒川静香さんは、5つの技で最高難度レベル4を獲得、表現力の評価もトップで1位。そこに、ニコライ・モロゾフコーチからも「個性を表現しなければならない。このオリンピックでこれをやるべき」と言って薦められたという「イナ・バウアー」への挑戦がありました。

 

「イナ・バウアー」への挑戦

彼女自身、実質的に点数に加算されないこの表現法を、オリンピックに用いることに懐疑的であったといいますが、「思いをこめた滑りが人の心を打つ喜び、観客と私をひとつに繋げてくれたのが、このイナ・バウアーだった」と後に語っています。彼女がこの大会でイナ・バウアーを用いたのは、実際に演技が始まってからの2分40秒後、オペラの本編でいうと、ちょうどカラフ王子が、自らの死を顧みずトゥーランドット妃との愛を確信し、二人が結ばれることを叫び、その「愛」を取り巻く全ての障壁に打ち勝つことを宣言して歌うアリア“誰も寝てはならぬ’’ のクライマックス「Vincerò私は勝利する!」の場面でした。

 

なぜイナ・バウアーに歓喜したのか?

その理由は観客の心のなかに蘇った“ことば”=「Vincerò私は勝利する!」だったから。

ヨーロッパでオペラを見ることはとてもポピュラーです。荒川静香さんの演技のときに“ことば”がなくとも、現地でこの演技を見ていた観客は、オペラのストーリー性、カラフ王子のトゥーランドット妃に捧げる愛の勝利への誓い・・・そして心のなかで蘇る“ことば” これらの表現美が一致することで大きな感動となったのです。そのことはこの大会で初めて見られた全観客のスタンディング・オベーションが証明していると言えると思うのです。

 

 

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